工房でお客さまに靴をご覧いただいているとき、「既成の靴とは違いますね」と言っていただくことがあります。
靴に詳しい方も、そうでない方も、一般的な靴屋さんに売っている靴とはどこかが違うと感じていただいているようです。
少し前になりますが、スタンダードラインの底面についての記事を書きました。
そこではレザーソールパッケージに焦点を当てて、革底の場合の手仕事ならではの形と意匠について解説しましたが、今回は同様にスタンダードラインのアッパーに着目して、作り手の視点から手製靴の特徴を解説します。
※レザーソールの記事は下記よりご覧ください。
立体感があること
既成靴とは何となく違うように見えるけれど、いったいどこが違うのか。
靴をまじまじと見ながら首をかしげる方もいらっしゃいますが、一番大きく異なるのは立体感があることではないかと思います。
既成の靴は不特定多数の方の足に合うように設計されているため、いわば最大公約数的な木型設計になりますが、オーダーの靴は、そのお客さま一人のために木型を設計・切削します。
そのため、木型から生まれた靴はお客さまの足の形状に、より近くなっており、指先の高さや屈曲部の薄さ、甲の立ち上がり等で既成靴にくらべて抑揚の効いた形状になるのです。
さらに、手製の靴には表革と裏革の間に補強のための資材がたくさん入っています。
Cacicaのスタンダードラインの靴では、つま先や踵の芯のほか、サイドライニングや紐穴まわりの補強など、屈曲部の上側以外には全て何らかの革が入っています。
それらのバランスを足の形に応じて整えることにより、作り手の美的感覚や意思を反映させた造形が可能となるのです。
重心が低くみえること
構造上の違いからみると、既成靴と手製靴では、製法(靴作りの場合は底付けの方法を指します)が根本的に異なります。
既成の紳士靴の多くはグッドイヤーウェルテッド製法が用いられているのですが、Cacicaでは、その前身であるハンドソーンウェルテッド製法という製法で靴を作っています。
文章でその違いの全ては説明しきれませんが、醸し出される靴の雰囲気という面で比較すると、その2つの製法の違いは中底のリブの高さ、つまりソールの縫い付ける位置になります。
グッドイヤーウェルテッド製法では、中底裏面にリブテープを貼ってそこにウェルトを縫い付けていきます。
それに対してハンドソーンウェルテッド製法では中底を直接削りだすことによってリブを作り、同様にウェルトを縫い付けていきます。そのため、ウェルトと本体の間に隙間が出来ず密着し、より直接的にソールから立ち上がっているように見えるのです。
特に、低い位置から鋭角に立ち上がるつま先の形状は、作り手として大切にしている部分でもあります。
革らしい革であること
Cacicaでは靴に使う革にタンニンなめし・染料仕上げの「革らしい革」を多く用意しています。
そのような革はオイルが入っているので、釣り込み時のテンションのかかり具合の違いで部位ごとに色の濃淡が出ます。
靴が完成してから靴磨き等で人の手によって仕上げられる色調も良いかもしれませんが、自然な革の風合いはまた格別です。
足元で感じていただきたい手製靴の良さ
オーダーで靴を作っていただくと、履きやすい、歩いて疲れにくい等、機能面でのメリットはもちろん、上記のように雰囲気の違いもかなり感じられると思います。
足に合った靴を履くと、余計な革のもたつきがないので足元がコンパクトに引き締まって見えますが、手製靴ではさらに輪郭が際立ち、足元がくっきりと立体的に見えます。
周囲の人から見るとどのように映るのか、オーダーした靴の履き心地と共に、その佇まいも鏡でご覧いただきたいところです。
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