オーダーしていただいた靴を少しでも長くご愛用いただくため、Cacicaでは靴を納品する際、靴のメンテナンスの仕方をご案内しています。
最近は靴磨きをする方も増え、SNS等できれいな靴を見る機会も増えました。
革靴を大切に長く履くことが広まってきて嬉しい反面、「靴磨き」=「ピカピカに磨き上げなければならない」と思ってしまう方もいらっしゃるようで、「あんなにピカピカに磨けない」「私は下手だから…」という声も聞かれます。
靴に携わる者からすると、ピカピカに磨き上げるだけが靴磨きというわけではありません。
靴を磨くことによって、素材としての革の状態を整えることに主眼を置いた「メンテナンス」の側面もあるということを知っていただきたいと思っています。
TAPIRをオススメする理由
Cacicaでは2015年より、靴磨き製品としてTAPIR社のものを取り扱っています。
理由は2つあって、ひとつは同社が環境保護活動に積極的なこと。
「サスティナブル」や「SDGs」が声高に主張されるようになる以前から、素材には天然由来のものを用い、その売り上げからはバクの保護活動への寄付もしています。
ちなみに、TAPIRというのは英語でバクを意味しています。
ブランドアイコンもバクですね。
もう一つの理由は、靴磨きをするにあたって、靴磨きに不慣れな方でも失敗しにくいことです。
例えば、多くのメーカーでは汚れ落としに溶剤の入ったクリーナーを展開していますが、TAPIRでは潤いを保つためのオイル「レーダーオイル」にその役割を充てています。
乳化クリームも、TAPIRの場合、その他のメーカーのものより顔料が少なく、厚塗りになりにくいのです。
このように書くだけでは分かりにくいので、靴磨きの手順の中で、もう少し詳しく説明していきます。
TAPIRを使った靴磨き(準備~汚れ落とし)
では早速、実際に靴磨きの手順を見てみましょう。
今回は、スムースレザーの単色の靴を磨くことを想定しています。
起毛の革や色が複数使われているコンビのものは、また次の機会にご案内させていただきますね。
こちらは私がちょうど10年前に自分用に製作したカジュアルラインです。
耐久性の確認のため、雨の日も雪の日もろくに手入れもせずに履いていたので、だいぶ草臥れていますね。
ところどころ、革のひび割れもありますが、もう少し履き続けたいと思っています。
さて、準備するものは以下の通りです。
- 艶出しブラシ(シュバルツ)
- 艶出しブラシ(ジルバー)
- レーダーオイル
- コットン布(使い古しのTシャツなど数枚)
- レーダーフレーゲクリーム
- ミニブラシ
埃落とし
靴磨きの最初は埃を払うところから。
埃は、革の油分を吸着してしまい、革が乾燥する原因になるので、しっかり払います。
靴紐は作業前に抜いておきましょう。
その方が靴紐周辺もしっかりケアできますし、今回のように紐の色が薄い場合は色移りも防げます。
内羽根など、靴紐が抜きにくい靴の場合は、抜けるところまででも良いかと思います。
使うのは馬毛のブラシ。
TAPIRでは「艶出しブラシ」という商品名ですが、こちらを使います。
艶出しブラシはジルバー(薄茶系の混色)とシュバルツ(黒)の2色展開のうち、ここで選ぶのはシュバルツの方。
ジルバーの方は、使ったクリームの色が分かりやすいため、後の手順でクリーム塗布後に使います。
どこから始めても良いのですが、靴本体とコバ(ソールの張り出しているところ)の境目は、埃や細かい砂が特に溜まりやすいので、念入りに払います。
屈曲部のシワが深くなっているところもしっかりと。
汚れ落とし
埃を払ったら、次は革に付着してしまった汚れをクリーナーで除去します。
TAPIRの製品では、「レーダーオイル」がその役割を果たします。
レーダーオイルは瓶の中で2層に分かれているので、使用前によく振ってください。
TAPIR以外の主なメーカーの革用汚れ落とし剤(クリーナー)には溶剤が入っています。
溶剤が入っているものは汚れが良く落ちるのですが、つけすぎると革を傷めてしまうのが難点です。
レーダーオイルは溶剤が入っていませんし、主成分がオイルなので、革をしっとりとした状態にしてくれるのが嬉しいところ。
さて、オイルをコットン布に取って、アッパーを拭いていきましょう。
革によってはシミになってしまうものもあるので、まずは「少量」取って、土踏まず等の「目立たない場所」から。
レーダーオイルは昨年(’23年)秋頃にマイナーチェンジがあり、瓶の口にインナーキャップが付属する仕様になりました。
本国では幼児の誤飲防止のため、とのことですが、これのおかげで少量ずつ出るようになって助かります。
オイルがシミになるかどうかは革の種類、状態によります。
染み込んで、そのままになってしまうものもありますし、一時的にシミになっても時間が経てば元に戻るものもあります。
Cacicaで使用している栃木レザーなどは、乾燥した状態だと急に染み込みますが、後で徐々に元に戻るタイプです。
様子をみて問題なさそうならば、全体を拭いていきます。
擦りこむのではなく汚れを浮かせるイメージで、やさしく円を描くように。
布を見ると汚れが落ちているのが分かると思いますので、布も使うところを変えながら作業を進めてくださいね。
オイルは溶剤より革にやさしいと言っても、つけすぎには注意が必要です。
傷めるわけではありませんが、革が過度に柔らかくなり、型崩れの原因になりますので気をつけて。
汚れを落とす工程ですが、布に何もつかなくなるまで、という訳ではありませんので、慣れないうちはくるくると円を描くように靴を一周拭いていただければ十分だと思います。
全体的にマットな感じになりました。
拭き取りが終わったら、革の状態が安定するまで少し時間をおきましょう。
30分~できれば1時間くらいでしょうか。
靴磨きにそんなに時間をとれないという方もいらっしゃるかもしれませんが、ヒールの減り具合や糸切れの有無、革の状態を確認したりと、靴と向き合うのにも良い時間ですので、待つ時間も靴磨きの工程に入れて考えていただけると良いかと思います。
長くなったので、後編に続きます。
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