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現場の靴作りを手渡したい -靴作り教室について考えていること-

「靴を作る」ということが趣味として認知されてから、ずいぶんと時が経ちました。

昔話をするのは嫌がられるかもしれませんが、私が靴作りを始めた頃は、革を買うのも道具を揃えるのも大変でした。
浅草の問屋では「素人お断り」という貼紙が店先に貼られていることが多く、革屋さんも靴メーカーが主な販売先だったため、個人は行っても良い顔をされませんでした。
それが、今はネットで道具も揃えられますし、革屋さんも販路を個人まで広げるようになりました。良い時代です。
環境が整ってきたこともあるのかもしれませんが、靴作り教室も昔より増えました。

外向きの靴作り・内向きの靴作り

ただ最近は、その靴作りが、「靴作りのための靴作り」になってしまっている教室も多くあるように感じます。本来、手を動かして靴を作るということは、「外に向かったもの」、つまり、お客さまあってのもののはずです。お客さまと正面から向き合い、そこから生まれる程良い緊張感によって技術が向上し、良い靴が生まれるのではないでしょうか。

教室の主宰がお客さまに向けて靴を作らず、ずっと教室の手ほどきをしているような、いわば「内向きの状態」は、あまり好ましいものではないと思っています。
初心者でも作れるように簡単な製法で、作りやすい素材を使って靴を作ること。
趣味の靴作りは個人的なものですので、それでかまわない、むしろその方が良いという意見もあることも承知しています。
ただ、そのような靴作りが広がっていけば、靴作り自体がどんどん簡素化されてしまい、過去から受け継がれてきた技術と乖離してしまうのではないかと思うのです。

確かに技術は時代によって変化していきます。
手に入る道具も素材も時の流れにより変わっていくので、それは仕方のないことで、むしろその変化に柔軟に対応していかなければ、手製の靴作りは衰退していくでしょう。
ですが、だからといって、旧来のやり方を性急に変えていくことはないと思っています。
特に昨今は情報の流れがとても速く流行化しやすいので、靴作りのやり方もどんどん変化しています。
徒にその流れに乗りるのではなく、その中から、変えた方が良いもの、そのままの方が良いものを取捨選択してゆっくりと移ろうことが大切なのではないでしょうか。

Cacicaの靴作り教室では、刻々と変化していく靴作りをそのまま伝えることに重点を置いています。
自分が習得し、実際にお客さまの靴を製作するのに用いている靴作りを、その同じ「重さ」のまま手渡していきたいのです。

どうぞお気軽に

靴作り教室には、他の教室に通っている方や、製靴の学校を卒業した方が、技術を補完することを目的に通われていたりします。
Cacicaではそのような方もお断りせず、今まで習ってきた方法とうまく折り合いをつけられるような形で靴の作り方をお伝えしています。
教室では靴業界に身を置いている方も通われていますので、技術の共有や資材・道具の情報交換など、相乗効果で知見が広がっていくように思います。

ただ、この教室運営の仕方にも、デメリットはあります。
常により良い靴作りの手法を模索し、細かくバージョンアップしているので、全てを体系化して教えることがなかなかできないのです。
教室見学の際に「ここに通えば職人として独立できますか?」という質問をたまにいただくのですが、現状の体系化できない靴作りでは、こちらに通うだけで独立することはできないと考えています。

最後にひとつ。
今回の記事では重々しいことを書いてきましたので、どんな教室だと恐れ慄いている方もいらっしゃるかもしれません。
見学にお越しいただければわかりますが、教室の雰囲気は和気あいあいとしたものですし、通われる方は、未経験の方が圧倒的に多いので、どうぞご心配なく。


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